中国・北京市の大気汚染警報とは。北京市は中国環境保護省が定める大気汚染指数で「重度」以上の汚染が予測される場合、時間に応じて4段階の警報を出す。北京市によると、3日以上続くと予想された場合は「赤色」、3日は「オレンジ色」、2日は「黄色」、1日は「青色」をそれぞれ発令する。赤色の場合、小中学校の休校勧告のほか、工場の操業停止、車の厳しい通行制限などの強制措置を取る。2013年10月に試行・導入され、2015年12月に初めて赤色が発令された。


北京市のPM2・5濃度の測定

中国・北京で大気汚染深刻

2016年1月

赤色警報下でネット学習

深刻な大気汚染により小中学校の休校が相次ぐ中国北京で、インターネットを活用した勉強法が人気を集めている。合言葉は「授業は休みでも勉強は休まない」。激しい受験戦争を背景に、家庭で手軽に利用できる使い勝手の良さが受けて利用者が増加。サービスも多様化し、新たな学習ツールとして定着しつつある。

北京市が大気汚染で最も深刻な「赤色警報」を発令し、全小中学校が休校となった2015年12月21日。街が灰色のスモッグに包まれる中、中学3年生(15歳)は、一緒に勉強をしていた同級生の自宅でパソコンを開いた。高校受験を2016年6月に控えている。

ネットサイト「北京数字学校」にアクセスして「物理」を選択し、教師の解説付きの電流に関する実験の動画を見ながら熱心にノートを取った。「学校の授業で分からなかったところを復習できるからとても便利。ほかの友達も使っている」と話すと、今度は数学の宿題に取りかかった。

北京数字学校は2012年、「教育の均衡ある発展」を目指す北京市教育委員会が設立。小学1年から高校3年まで、科目や分野ごとに細かく分かれた5~10分の動画を無料で提供している。登場するのは実際に教壇に立つ教師たちで、中国メディアによると、初の赤色警報で休校になった2015年12月8日のアクセス数は100万回を超えた。

大気汚染による休校をビジネスチャンスととらえる企業もある。

IT企業や大学が集まる北京市中関村地区にオフィスを構える「快楽学」は、ネット検索大手「百度」から独立した最高経営責任者(CEO)が中心となり2013年に立ち上げたベンチャー企業。全国約5500校の中学や高校と契約し、宿題のやりとりなどに使えるシステムを提供する。

最大の特徴は、出版社と協力して随時更新している豊富な問題。教師が生徒の解答をスキャナーで読み込むと、解答が自動的に採点され、1問ごとにクラスの正答率が表示される。教師が正答率の低い問題をクリックすると、データベースから類似の問題が瞬時に出てくる。

教師は採点と反復問題の出題に割く時間を大幅に節約できる。生徒は分野ごとに全体の平均点との差をまとめた一覧表や、間違った問題を集めた小冊子を受け取れるため、弱点の克服に役立つ。

赤色警報による休校後は、北京と同じく大気汚染に悩まされる天津市や山東省からの問い合わせの対応に大忙しだ。

北京市のPM2・5の月平均濃度が悪化

2015年12月

上海では企業から「スモッグ費」徴収

中国当局が、深刻化する大気汚染への対応策を次々と打ち出している。企業から「スモッグ費」徴収を決めた地方政府も。北京市では2015年12月18日、重度の汚染が72時間以上続くとして、2回目となる最も深刻な「赤色」警報が発令された。エネルギー消費を石炭に頼る構造改革は時間がかかるだけに、汚染緩和は「強風頼み」。少しでも市民の不満を抑えようとアピールに躍起だ。

「環境対策に関しては必要な措置を取っている。まだ挑戦に直面しているが、この道を揺るぎなく歩む」

中国外務省の洪磊副報道局長は12月18日の記者会見で、政府の「努力」を強調した。本来は所管外だが、メディアや市民の関心は高い。それに呼応するように、新しい施策が目立っている。

中国紙、京華時報によると、上海市は光化学スモッグの原因となる揮発性有機化合物の排出費用を企業から徴収する制度を試行すると発表した。対象は石油化学、造船、印刷など12業界。排出量1キロ当たり10元を徴収し、2016年7月以降、額を引き上げていくという。

北京市は2017年までに排ガス規制を「世界で最も厳格な基準」に強化する方針を公表。黒竜江省が、質の悪い石炭を使用していた暖房供給会社など47組織の名称を公表したように、違反企業を名指しで批判する地方政府も目立つ。

背景には、改善が進まないことへの焦りがあるとみられる。

中国環境保護省によると、北京や天津など14都市では2015年11月、大気汚染の数値が基準内に収まった日数は半分にも満たなかった。北京市の微小粒子状物質「PM2・5」の月平均濃度は、大気1立方メートル当たり118マイクログラムと、2014年11月期より4割近く悪化。中国北部の汚染物質が流れ込み、上海などでも悪化している。

河北省など華北地域では、エネルギー消費の9割を石炭が占めており、「脱石炭」が急務。地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」によって、エネルギー源転換は中国の「国際公約」となったが、無論、すぐには結果は出ない。

国土が広いだけに地域によって事情が異なり、重化学産業のインフラ不整備や排ガスの増加、建設ラッシュによる土ぼこりなど、汚染原因が多岐にわたる点も対応を難しくしている。

遼寧省は、国有企業301社に汚染物質の排出データを直接収集できる監視設備を設置した。企業任せにできない現実を示しており、長く成長至上主義で来たつけが噴出した形だ。一方、急激な企業の負担増や工場閉鎖はさらなる経済減速を招きかねず、政府にとってジレンマとなっている。

北京市で12月7日、初めて「赤色」警報が出た際、北京市内の大手電器店では空気清浄器が1日1万台近く売れたという。呼吸器内科を受診する人が増えていると一部で報じられている。2人の子を持つ北京市の30代会社員は「もう逃げ場がないです」とぼやいた。

「環境汚染は民心の痛みである」。李克強首相は3月の全国人民代表大会(全人代)でそう述べたが、「痛み」解消はまだ遠い。