中国・北京の大気汚染についての記事です。PM2.5やオゾンの指数と健康への影響。アメリカ大使館(朝陽区)の大気汚染観測モニターの測定・公表データなど。


北京の空気と空の汚染

中国 大気汚染対策で石炭制限~北京に青空

2017年12月

暖房使えず市民不満/需要増で天然ガス不足

深刻な大気汚染に悩まされてきた中国・北京で、抜けるような青空が連日広がっている。政府が「青空防衛戦」と称し、徹底的な環境対策を進めているためだ。ただ汚染の元凶である石炭の使用を厳しく制限したため、暖房が使えず寒さに震える市民が続出するなど、混乱も起きている。

「2016年までは村中の家から出ていた黒い煙がすっかりなくなり、空気もきれいになった」。北京郊外の馬坊村に住む女性(67)は2017年11月末に購入したばかりの家庭用ガスボイラーの前でうれしそうに話した。中国北部では伝統的に暖房に石炭を使ってきたが、質の悪い石炭を燃やすため大気汚染の原因になっていた。

政府は2017年8月、北京や河北省などの大気汚染対策を発表し「青空防衛戦に断固として打ち勝つ」と表明した。冬を迎える前に石炭から天然ガスへの切り替えを徹底するよう指示。目標を達成しない地方政府の責任を厳しく追及する方針を示した。

対策の効果は著しく、環境保護省によると北京の11月の微小粒子状物質「PM2・5」の平均濃度は2016年11月より54%も低下した。

だが反発もある。馬坊村では「村への石炭持ち込み禁止」との標語を掲げ、石炭の使用や売買を禁止。別の女性(73)は「家までガスの配管が通っていないのに役人が来て石炭を燃やすなと言われた」と憤る。寒さに耐えきれず、知人からこっそり石炭を仕入れて暖を取ったという。

河北省の小学校では、暖房がないため日差しのある戸外で授業を行い、児童が凍傷になったと報じられた。中国メディアによると、市民の猛反発を受け、政府は12月上旬、石炭の使用を一部認める通知を出した。

一方、天然ガスは需要が急増して深刻な燃料不足を起こしており、各地の工場で操業がストップ。遼寧省大連では、食品メーカーなど複数の日本企業がガス不足を理由に操業制限を求められたという。

習近平指導部が対策を急ぐ背景には、市民の不満が強い環境汚染を放置すれば、社会が不安定化しかねないとの危機感がある。

また、中国は温暖化対策の新枠組み「パリ協定」を2016年に批准しており、脱石炭に向けた実行力を国際社会に示す思惑もある。

このため習指導部は天然ガスの確保と供給網の整備を急ぐ構えだ。世界各地の液化天然ガス(LNG)に触手を伸ばしており、11月の米中首脳会談に合わせて、米アラスカ州のLNG開発に中国企業が参画することで合意。ロシアが北極圏で始めたLNG事業にも中国企業が出資している。

中国の1~11月の天然ガス輸入量は2016年1~11月期比で26・5%増加。アジア市場でのLNGのスポット価格は2017年春の2倍の水準に急騰している。中国の「爆買い」による高騰が続けば、世界最大のLNG輸入国である日本にも影響が及びそうだ。

中国/大気汚染にかすむ北京の空

2016年11月

2015年晩秋のある日の朝、私は北京のアパートの窓から眺めた景色に驚いた。道路を隔てた向かい側、わずか50メートル先のビルがかすみ、街中が白濁したようなガスに埋もれていた。街を移動する車はまるで濃霧の中を進むよう。天安門に掛かる毛沢東の肖像画も人民大会堂もガスの中に沈んでいた。その日のPM2.5(微小粒子状物質)の数値は1立方メートルあたり1000マイクログラムを超えたそうだ。毎年秋から冬にかけて大気汚染に悩まされる北京だが、この日は過去に例のないレベルで、学校は休校、企業も臨時休業とするところが多かった。

2カ月前に抗日戦争勝利記念の軍事パレードが真っ青な空の下で開催された。この青空を得るために、長期間の工場閉鎖、建設工事中断、車両運行量半減という強硬措置が取られたが、わずか2カ月で過去に例がないほどの汚染に包まれてしまった。

汚染状態が長く続くと感覚も麻痺してしまう。日本の環境基準では70マイクログラムは外出を控えるレベルとされるが、北京で生活をしていると、100マイクログラム程度なら「今日はまずまず」、200マイクログラムでも「まだ大丈夫」という感覚になってくる。それでも健康への影響を考えて外出を避け、アパートのジムで運動不足を補ったが、ジムから見える外の様子は相変わらずの汚染の空。空気清浄機をフル回転させながら、窓ガラス1枚隔てた外を眺めて諦め気分で過ごす毎日だった。

2016年5月、政府系の中国能源研究所長が来日し講演を行ったが、大気汚染の深刻さに言及し、助けてほしいと訴えていたのが印象的だった。もはや中国の大気汚染は抜き差しならないところまで来ている。安全な水や食料は金で買えるが、大気汚染は誰も避けられない。国家主席も一般民衆も同じ空気を吸っている。2016年もまた汚染が増す季節がやってきた。将来の健康被害が心配だ。

大気汚染で冬休み延長 中国・北京の小中高

2016年1月

中国の北京市教育委員会は、冬場に深刻化する大気汚染に対応し、小中高校の冬休みの期間を延長する方針を決めた。汚染に応じて休校が増え、学業への影響を懸念する声が保護者から出ていることを踏まえ、週末に振り替え授業を認めるなど、学校ごとに柔軟に対応することも打ち出した。

北京市は、深刻な大気汚染が72時間以上続くと予測される場合、「赤色」警報を発令し、ナンバープレートの末尾の数字による車両通行規制や小中高校の休校措置をとってきた。2015年12月には2回警報が出され、2~3日ずつ休校になるなど教育現場に大きな影響が出ていた。

中国紙、京華時報によると、春節(旧正月)をはさんで1カ月程度ある冬休み期間を延長し、その分、7~8月の夏休みを短縮する計画という。2016年はすでに冬休みに入っているため適用しない。

さらに汚染の数値は北京市内の各区によってばらつきがあるため、今後は一律に休校とせず、学校が自主的に決められるようにする。中国では共働きの家庭が多く、休校時には子どもの世話のために仕事を休む親も目立っていた。